『受け口』という言葉を聞いたことがありますか?
本来きれいな歯並び、噛み合わせだと、「いー」とお口を閉じた時に、下の前歯を覆い被さるように上の前歯が並んでいる、すなわち下の前歯よりも上の前歯が前に出ている状態が正常です。
『受け口』とは、
「いー」とお口を閉じたときに、上の前歯よりも下の前歯が前に出て逆に噛んでしまっている状態です。
受け口は『反対咬合』や『下顎前突』、『しゃくれ』などとも言われています。
受け口の場合、歯並びが悪いといった見た目の問題だけではなく、将来的に様々なトラブルを生じる可能性があります。
きれいな噛み合わにより、前歯がしっかり噛めていることで、食べ物を前歯を使って細かく噛み切って咀嚼運動をしやすくしたり、顎を前に動かした時に、上下の前歯だけが力を受けて奥歯の負担を和らげるなどの大事な機能があります。
しかし、受け口により前歯がしっかり噛めていないと、奥歯ばかりを使うことになるため、歯がすり減りやすかったり、歯にヒビが入ったり、顎関節に負担がかかることで顎が痛くなることもあります。
予防歯科の概念が浸透し、定期的な検診やクリーニングを受ける方が増えてきています。
「8020運動」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、80歳の時点でご自身の歯が20本残っていれば、食事に困ることがなく、栄養をしっかり摂取することで健康に過ごせるため、歯を残しましょうという運動です。
歯の大事さが浸透してきており、高齢の方でも入れ歯が入っている方は減ってきております。
歯科疾患実態調査のよると、8020の達成率は平成23年の40.2%から平成28年の51.2%に大幅に増えております。
しかし、歯を残すためには歯磨きやクリーニングを受けて、むし歯や歯周病にならないようにすることだけではなく、「噛む力のコントロール」が必要になってきます。
「噛む力のコントロール」というのは、具体的には、
- 噛む力が歯全体に分散してどこかに集中しないようにする
- 歯ぎしりや食いしばりにより歯に過度な力がかからないようにする
ことが挙げられます。
噛む力のコントロールができていないと、歯や筋肉、顎関節にさまざまなトラブルが生じます。
例えば、
症状①歯
歯がしみる・痛い、歯周病の進行、詰め物や被せ物がよく外れる、歯が割れる。
症状②筋肉
血行不良による咀嚼筋・表情筋の痛み、頭痛や肩こり。
症状③顎関節
口を開ける時に顎がカクカク鳴る、顎関節が痛い、お口が開きにくい・開かない。
歯ぎしりや食いしばりは、睡眠時にマウスピースを装着したり、ボツリヌストキシン製剤注射などで対応できます。
しかし、噛む力をは全体に分散させようと思うと「矯正治療」が必要になってきます。
顎の骨が骨格的に問題がなければ、歯だけの矯正治療で歯並びを改善すると、噛み合わせがよくなり噛む力を分散することができます。
しかし、骨格的に問題があると、歯の矯正だけでは噛み合わせがうまく改善できないことがあるため、顎の骨を削って位置を変える手術が必要になってきます。
成長とともに身長が伸びるように、顎の大きさも次第に成長してきます。
しかし、上顎と下顎では成長度合いが変わってきます。
上顎の成長は、大体10〜11歳でピークを迎えます。
下顎の成長は、18〜20歳まで成長し続けます。
通常の噛み合わせでしたら、上の歯が下の歯よりも前にあることにより、下の顎が前に出るのを抑えることで、上顎の骨と下顎の骨のバランスが取られます。
しかし、幼少期から受け口の場合、上顎による押さえ込みがなく、下顎が20歳近くまで成長し続けるため、より下顎が出た状態になってしまいます。
すなわち、幼少期よりもさらに受け口が進み、下顎が出てしまうことで、噛み合わせが非常に悪くなってしまいます。
先ほど、8020の割合が増えてきていると述べました。
しかし、過去のデータにはなりますが、東京歯科大学矯正歯科講座の研究結果では、受け口の方で8020を達成する人の割合は、なんと0%だったそうです。
長年の噛み合わせの不調和により、歯が割れてしまったり、歯周病が進んでしまうのが、歯が残らない、すなわち歯を抜くことになってしまう原因となると考えられます。
以上のことから、歯の矯正治療を必要とする状態には、さまざまな状態がありますが、「受け口」は早急に改善する必要があります。
受け口による、上と下の顎の位置のズレは、早期に対応する必要があります。
では、なぜ受け口になってしまうのでしょうか?
原因としては色々と考えられます。
- 遺伝的要因
- 上顎の骨の劣成長や下顎の骨の過成長
- 舌の悪習癖(下を前に出す癖や低舌位など)
- 幼少期の癖によるもの(下顎を前に出す癖、泣く時などに下顎を出すなど)
いずれにせよ、3歳くらいまでは経過を見て、癖などがあるようなら治すことで改善することがあります。
しかし、受け口のままだと、歯が傾いてきたり、下顎がどんどん成長すると、自然には治らなくなってしまいます。
新井歯科の取り組み
そこで、新井歯科での取り組みとして、3歳までは下顎を前に出す癖がないかをチェックし、経過を見させていただきます。
そして、3歳以降も下顎の方が前に出ているようなら、顎の位置を正常な位置関係にするマウスピース型の装置で対応させていただいております。
基本的には、寝ている時につける装置ですが、日中も可能でしたら、装着してあげると効果的です。
小さい子にはパナシールドプラスという柔らかいシリコン製のマウスピース型装置を、小学生くらいのお子さんにはプレオルソという別のマウスピース型装置をお勧めしております。
どちらも歯を細かく動かす装置ではありませんが、小さいうちに顎の位置関係を正常にしておくことで、もし将来的に歯列矯正が必要になっても、とてもスムーズに行えるようになります。
むし歯や歯周病もそうですが、どのような悪い状態でも、早期に発見し早期に対応することで、大きな負担がなくスムーズに対処できることがほとんどです。
特に骨格的な問題は、年齢という時間制限があるため、早期な対応が必要です。
そのためには、幼少期から歯科医院で定期的にお口の状態をチェックしてもらい、歯以外の問題(骨格の問題、舌の悪習癖、軟組織の異常など)も見てもらうのが良いでしょう。
お子さんがいる方は、ぱっと見で虫歯がなかったり、検診でひっかかっていなくても、定期的な歯科検診や予防処置を受けるようにしましょう。